ケース1:クレームと明細書で訳語が一致していない場合
クレームに「desk」という用語を使い、明細書内で同じ構成要素を「desk」と「table」の両方で訳したとします。この場合、裁判所はクレーム中の「desk」を、明細書中の「desk」部分の説明のみから解釈します。
「table」と訳された部分の説明は無視されるため、権利範囲が意図より狭くなります。
実務解説
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「特許の翻訳品質は、読めばわかる」と思っていませんか。実は、特許翻訳の品質は読みやすさとはほぼ無関係です。流暢に読める訳文でも、用語の使い方ひとつで特許権の権利範囲が変わってしまうことがあります。
本記事では、特許翻訳における「訳語の一貫性」がなぜ重要なのか、具体的なリスクとともに解説します。
一般的な翻訳では、同じ意味を持つ言葉を別の表現に言い換えることは自然なことです。むしろ、繰り返しを避けることが良い文章とされます。
特許翻訳では逆になります
しかし特許翻訳では、この「言い換え」が致命的な問題を引き起こします。特許庁や裁判所は、「異なる用語が使われているなら、それは異なる構成要素を指す」という解釈原則のもとに判断するからです。
ケース1:クレームと明細書で訳語が一致していない場合
クレームに「desk」という用語を使い、明細書内で同じ構成要素を「desk」と「table」の両方で訳したとします。この場合、裁判所はクレーム中の「desk」を、明細書中の「desk」部分の説明のみから解釈します。
「table」と訳された部分の説明は無視されるため、権利範囲が意図より狭くなります。
ケース2:異なる要素に同じ訳語を当てた場合
原文に「机」と「デスク」という2種類の要素が登場するにもかかわらず、どちらも「desk」と訳した場合、2つの異なる構成要素が同一視されます。
その結果、クレームの解釈が限定的になり、権利行使時に不利になる可能性があります。
翻訳メモリの落とし穴
過去案件で「机」を「desk」と訳した翻訳メモリを使い回すと、新たな案件で「机」と「デスク」が並存しても両方「desk」に訳されてしまいます。
翻訳メモリは単語の表面的な一致で機能するため、案件ごとの文脈判断ができません。
AIの訳揺れ
AIは各文を独立して翻訳するため、同一の原文用語でも文脈によって異なる訳語を選びます。
これは個々の文としては自然に見えますが、明細書全体での一貫性という観点からは問題が発生します。
翻訳品質の評価基準を「読んでわかりやすいか」から「用語が一貫しているか」に変えるだけで、発注する翻訳の品質に対する見方が変わります。
発注時に翻訳会社へ「訳語の一貫性についてどのように管理しているか」を確認することが、知財担当者にとっての実践的な品質チェックになります。
AI PatentTrans. では、案件ごとの用語管理と熟練翻訳者による訳語チェックを組み合わせ、訳語の一貫性を組織的に担保しています。